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小さく「えっ」と疑問符を投げる声は、あたしにしか届かなかったらしい。
ノッポのモロは顔色ひとつ変えず、先生を品定めするような視線を瞬時に走らせた。
「ふうん」
それだけつぶやいて、唐突にクルッと背中を向ける。
「オレ急いでるから」
振り返らずに、名残なく足速に去っていく後ろ姿。
小憎らしいあの広い背中を、何度見つめてきただろう。
その先にある、まばゆいばかりのキャンバスと共に。
あたしの一番嫌いな背中。
才能という羽根を隠した天使の背中だ。
モロの灰色頭が人混みに紛れ切れずに飛び出したまま、遠ざかっていく。
水面に顔を出したアザラシに似ている。
波を華麗なステップでひょいひょいかきわけながら、あたしの視界から消えていった。
「……えっと。なにごとかな?」
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