再会する昨日と、嘘。

5/44
前へ
/391ページ
次へ
「もう大学生だし、それなりに大人になったから」 黙っていると肯定の意味になりそうで、あたしはぶっきらぼうにそう吐き出した。 我ながら全然かわいくない。 それでも先生は、気にするそぶりを露ほども見せず、ハハハッと楽しげに笑う。 「だよなあ。まだ高校生だったもんなあ。……って、あれ? 大学生?」 ドキッとした。 そうだ。 結局進路をどうしたのか、先生には伝えず終いだったっけ。 懲りずにあたしを救おうとする彼を、冷たくあしらい続けたのは自分だ。 耐え切れずに親に泣きついたら、それ以来パッタリ現れなくなった。 あたしみたいにひどい教え子、きっとほかにいない。 本当に希望する進路を諦めないよう、家庭教師という枠をはみ出してまで背中を押そうとしてくれた先生。 成績が下がってクビにされてしまっても、変わらず応援し続けてくれた。 それなのに、あたしはその声に背中を向けたのだ。 好きだったから。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加