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「いや、ほんとよ? そこは信じていいとこだよ」
引き抜いたカードを元に戻す先生の仕草が妙にきれいで、視線がその指先に惹きつけられる。
「栄美ちゃん、これから帰り?」
「あ。もう一軒画材屋に行く」
「俺、ヒマ人だからついていっていい?」
「うん」
本来なら、ここで別れるべきなのだろう。
それなのに、あたしはうまく断れない。
偶然の再会が本当に嬉しいのは、きっとあたしのほうだからだ。
「先生、今日講義は?」
「ないの。栄美ちゃんは?」
「あたしは帰り」
「サークルは?」
どうして言ってしまったのだろう。
避けたい話題のはずなのに、先生が食いつかないわけないのに、一瞬でも暗い顔をしてほしくなくてとっさにバラしてしまった。
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