【No.13】

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その日、吉田音(ヨシダオン)はスタジオに居た。 居た、と言うか、来るしかなかったと言うか… このスタジオでは本日、バンドのメンバーを選出する為のオーディションが開かれている。 第一から第四スタジオでそれぞれ、ボーカル・ギター・ベース・ドラムのオーディションが行われていた。 因みにここは第二。ギターのオーディションである。 ゆえに待ち合い室には当たり前だがたくさん人が居て、しかも知らない人間ばかり。さらには男ばかり。……目線が突き刺さる。 例えるならば、『何コイツ。何しに来たの?』みたいな。 場違い感がさらに増す。 何故なら音は高校三年生。世間では受験に忙しい学年だ。 私だって、好きで来たわけじゃないんですよ……。 別に何か言われた訳ではないのだが、弁解したい気持ちになった。 落ち着け私。そんなことして何になる。 居心地最悪なこの空間で、音はギターを、椅子よりめいいっぱい前に伸ばした足の間に入れて、ギターケースに顎を乗っけていた。 心のなかでは『はやくおわれ。はやくおわれ』と唱えながら。 だいたい、音は進級したての何かと落ち着かないこの時期の貴重な土曜日を、こんな緊張の中で過ごす予定では無かったのだから。 『では、次のグループ、入室してくださーい』 いかにもスタッフです!と言う格好のお兄さんが、扉を開けて足で押さえながら受験者を促した。 緊張した面持ちの、たくさんの男たちが立ち上がる中でただ一人、音だけがダラダラと最後に後に着いていった。 真剣な顔した、審査員の前で、とうとう順調が回ってきた。 『それでは最後、No.13の方。準備が出来次第、右手を挙げてから演奏を始めてください』 彼女の無彩色な日々が色づくまで、後少し 音は一度ちいさく息を吐くと右手を少し挙げた。 「お願いします」 そうして音はギターをはじいた。
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