【endaevor】

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「正直……、少し難しいかと思ってました」 その言葉に『やっぱり』と言う顔をした母。 「難しいのね…」 「おーい?かあさーん…」 「やっぱり無理なのね…!この子が赤点を免れるなんて!」 「息子を目の前にしてなんて言い種…!」 しかし愛の結晶である息子なんて視界に入っていない母。 そんな母の手を優しく握り返したオン。 「確かにエニシくんは重症です。けれどまだ救いようがあります」 「……本当に?」 相変わらずの無表情だが、案外ノリはいいらしい。 オンは力強く頷いて見せた。 「ええ。 バカにつける薬はありませんから、地道に問題をとくしかありませんけれど」 「あれ?オンまでいっちゃった?オレにバカって言った?」 「ぜひ…、ぜひお願いします! 何時間でも、何日でも!」 売っちゃったー!愛の結晶、売っちゃったー! こうしてエニシはひたすら家族に生暖かい目で見守られ、オンに勉強を叩き込まれたのだった。 それはもう、『叩き込む』と言うよりも、『無理矢理骨の髄まで叩き込む』くらいなものだった。 なぜそこまでして急いでいるのか。 それは。 「本当に間に合うのかしらねぇ、あの子…」 「兄ちゃんの学校、テストって来週だったよね…」 そう。ヨシの言う通り、何を隠そうエニシの学校は来週がテスト期間である。 「オンちゃん悪いね、うちの息子の勉強見てもらっちゃって。 オンちゃんの勉強の邪魔にならないかい?」 半泣きの息子の肩を軽く叩きながらオンににっこり笑った父にオンは。 「大丈夫です。授業中に覚えてますから。 それに中学のおさらいだと思えば何とも」 クールだった。 最近の女子高生はこんなにもクールなものだったのか…。 迂闊に話しかけたら大怪我しそうだ。 父はすごすごと退散することにした。 今のスキルじゃ無理だと確信して。 リビングに遠野家が勢揃いしたまま、勉強会は夜へと突入した。
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