ミルクとパン屑

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 今日は週末である。  公園前の大通りに絵描きの姿があった。週末は人通りが多く、露天や売店にとっては書き入れ時である。  絵描きにとっても例外ではない。実際に平日と違って週末は実入りも多い。朝早く売り出して太陽が中天を差す頃には油絵が一枚売れた。  平日では考えられないくらいだ。  実はもう一枚売れるはずだった絵がある。昨日の黒猫が魅入っていた小さな猫の絵である。  本当なら生活の為に売りたいところだが、またあの猫に会いたくて、小さなイーゼルに飾って取ってあるのだ。午前中の稼ぎで買った少しのミルクとパン屑を猫の分に少し取っておく程に。  あの猫に親近感を感じている。どこに行っても人間に嫌われ一人ぼっちなのだろう。体中に痛々しい傷があった。  そんな黒猫と、誰にも認められず孤独な自分を重ねたりした。  もう夕暮れだ。  あれからもう一枚絵が売れたが、絵描きの顔は優れなかった。瓶の底に溜まったミルクは冷えて、パン屑は水分が抜け、ただの屑になっている。
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