絵描き

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 白いため息が漏れる。  舞い落ちる雪を見て、絵描きがもう一度ため息を吐いた。大小の絵を両脇に抱え、うっすらと石畳に積もる雪を踏みしめてアトリエまで帰る。  住居も兼ねているアトリエの木戸を開けると、油とシンナーの匂いが鼻を刺す。  絵描きは慣れた様子で抱えた絵を下ろすと、窓際の陽だまりにある小さな写真立てに目をやる。 「今日もだめだったよ」  寂しそうに目を伏せると今度はイーゼルに掛かったキャンパスに目線を送る。机の上の小汚い箱に雑多に置かれた油絵具から幾つか選ぶと、透明な瓶に入った粘度のある液体と混ぜた。  次に絵描きは親指を入れる為の穴が開いた木のパレットを用意し、混ぜ合わせた色とりどりのそれらをパレットの上に落とした。  イーゼルの前で椅子に腰掛けて、毛先が固まってごわごわした筆を使ってキャンパスを彩り始めた。  艶やかな肌色。空のような青。エメラルドにも似た緑や、夜の帳を思わせる漆黒。
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