絵描き

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 絵描きは目ぼしい場所を見つけると、厚手の布を引いて作品を並べ始めた。絵と一緒に持ってきた小さなイーゼルを奥に配置し、中でも見栄えの良い作品を飾った。  それから油絵を置いた幅広の歩道の縁に腰を落ち着けた。雪は降っていないが、石の上だけあってひんやり冷たい。公園の広葉樹はずいぶん葉が落ちて、本格的な冬の到来を思わせた。  それにしても客が来ない。他の売店や骨董品を置いている露天は賑わっているのだが、絵描きの商品を買おうとする客は少ない。時折老夫婦や白髪の紳士が覗きに来たが、どうやら買う意思は無いようだ。  それでも物好きな人間がたまに買っていくが、絵を売って日銭を稼いでいる絵描きにとっては、買ってくれれば誰だっていい。とはいえ絵描きにだって忸怩たる思いがある。  本当なら絵画展に出品して人々に自分の描いた絵を認めてもらいたい。しかし絵画展に出品するにも金がいる。ただと言う訳にもいかないのだ。  日銭を稼ぐ事が精一杯な絵描きには到底無理だろう。それに出品した所で受賞する確率は低い。才能云々ではなく、絵画展のほとんどが出来レースなのである。
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