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◇◆◇◆◇
――よく晴れた冬の空。
深い森の高台にある洞窟の前で、長い黄金の髪を風になびかせる少女がひとり立っていた。
晴れ渡った青空と同じ淡い空色の瞳には悲しみと怒りが入り交じり、整った顔立ちはわずかにゆがめられている。
小さな拳を震えるほどに握りしめた少女の名は、――サラ・インバース。
彼女は大きな深呼吸を数回繰り返し、深い闇へと誘うようにぽっかり空いた入り口を睨みつけた。
「ドラグ―ドラゴンの鱗さえ持って帰れば、きっとブラックは私を認めてくれる……!」
誰に言うでもなく呟くサラの前にあるのは、この近辺で最強と言われるドラゴンが住まう洞窟。
どこまでも続く暗闇に足が竦みそうになる。
けれど、このままここで引いてなるものか――強い決意とともに足を踏み出した瞬間。
嵐かと思うほどの強風と、嵐とは思えない凄まじい轟音が辺りに響き渡った。
肩を跳ねさせ身体を強張らせれば、地鳴りとともに足元が大きく揺れた。
転びそうになる足に力をこめて体制を立て直し、指で覆ったわずかな視界から音の根源を捕らえ――息を飲んだ。
「あれは……学園の方角……?」
もうもうと立ち込める砂煙は間違いなくサラが生まれ育ったレジエン学園からだ。
……一体何が――その問い掛けは言葉になることはなくサラの胸中にとどまった。
言葉にするよりも先に、身体が動いた。
大切な仲間たちがいる、大切な場所。
一刻も早くそこに戻るため、サラは険しい山道を無我夢中で駆け下りた。
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