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サラは幼い頃から泣き虫だった。
彼女が泣けば、親友たちが必ず駆け付け何も聞かずに守ってくれた。
けれど、彼だけは。
彼だけは、いつだってゆっくり近付いては泣きはらした顔を覗き込み厳しい声音で叱咤してくれた。
「ブラック……」
いつも自信家で、俺様で。
優しくなんか、なかった。なのに、なぜ今、彼のことばかりが頭をよぎるのだろうか。
はらはらと頬を滑り落ちる涙は乾いた地を濡らし、色濃く染めていく。
「……ブラック」
かすれた声で再び名前を呼んで、ふと思い出す。
彼は、サラの呼びかけを聞き逃したことは一度もなかったと。
「サラ?」
「っ、」
大きな瞳を見開いて振り返り、声の主を滲む視界に映し出す。
真っ黒な髪に、強い光を放つ真っ黒な瞳。
そして、揺るぎない意志を表すようにきゅっと上がった眉と目元に整った鼻梁。
脳裏に浮かんだ姿を寸分違わぬ姿に、サラは綺麗な顔を歪ませてブラックへと手を伸ばした。
そのままぎゅっとしがみつき、無事でよかったと繰り返しながら何度も名前を呼ぶ。
だが、彼は抱き返すことはせずにそっとサラを引きはがした。
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