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「もうすぐ城の救助隊が来るはずだから、お前は休んでろ」
わずかに頬を赤く染めたブラックは、サラの返事を待たずに瓦礫の山へと向かってしまう。
らしくない自身の行動を恥じるも、視界に飛び込んできた彼以外の生存者が力なく倒れている姿に息を飲む。
学園には、同じ年頃の学生をはじめ、うんと幼い子どもまでたくさんの生徒がいる。
生存者は学生全体の数を考えればまだまだ足りない。
助けを求めている生徒は、たくさんいるはず。
「私も手伝う!」
「……びびった」
予想外の大きな声にサラ自身驚いたが、ブラックも同じようで真っ黒な瞳を見開き続けた。
「いつも虫が鳴いてるんじゃねえのってくらいの声なのに」と。
揶揄するように笑うブラックの耳に、助けを求める声が聞こえた。
そこで待ってろよ、と言って背を向けたブラックの声は、サラに届いてはいない。
「……虫」
声の小ささは昔から自分でも認めていたし、周知の事実だった。
だが、それをまさか虫に例えられるとは。
ふつふつと沸き上がる怒りに、唇が震える。
「……によう」
やっと口にできた言葉も、きちんと声にならない。
ブラックは相変わらず背を向けたままで。……遠い。こんなに近くにいるのに。
無事でよかったと喜んでいたのは自分だけだったのか。
言いようのない虚しさが募り、サラはずんずんと足を進めてブラックを押しのけた。
「ブラックは治癒魔法使えないでしょ。私がやるからどいて」
反論される前にと救出された生徒に杖をかざして魔法を発動させる。
淡くあたたかな光とともに流れていた血は止まり、傷は塞がっていく。けれど、ブラックとサラの間に生まれた気まずさを孕んだ無言の溝はじわじわと広がっていく。
息を吐いて礼を言う生徒に頷きながらブラックを盗み見れば、ばつが悪そうに俯いている。
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