第一話・蠱毒

2/14
前へ
/33ページ
次へ
最寄りの駅から走って五分。 目指すは細い路地に聳える古びた雑居ビルの三階。 そこが俺、弓張潤狼(18)のバイト先。 「遅くなりましたっ!」 ビルにはエレベーターが無い。 階段を駆け上がって磨り硝子を嵌めたドアを開ければ、我が上司である鵲さん(26)はデスクの上に投げ出していた足を下ろし、たっぷりと間を置いて一言。 「コーヒー」 「……はい」 恐らくさっきまで寝ていたんだろう、明らかに気力のない顔をしている。 俺は一抹の脱力感を覚えて備え付けのキッチンに向かう。 「ブラックで良いですね?」 「おー」 新聞をガサガサやる音を聞きながら、戸棚に手を伸ばすと。 「来客用のやつな」 との追加が飛んできた。 「え、マジすか?」 「マジっす」 「依頼っすか?」 「正式には請けてない。上弦からの紹介なんだけどな」 上弦さん(30)は鵲さんの知人の刑事さん。 時々やってきては依頼の紹介や世間話をして帰っていく。 男の俺から見てもイケメンで、訪問の度に土産(割と高そうな菓子とか)を持参してくれる良い人だ。 「まああいつが言うならガチなんだろうけどな」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加