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最寄りの駅から走って五分。
目指すは細い路地に聳える古びた雑居ビルの三階。
そこが俺、弓張潤狼(18)のバイト先。
「遅くなりましたっ!」
ビルにはエレベーターが無い。
階段を駆け上がって磨り硝子を嵌めたドアを開ければ、我が上司である鵲さん(26)はデスクの上に投げ出していた足を下ろし、たっぷりと間を置いて一言。
「コーヒー」
「……はい」
恐らくさっきまで寝ていたんだろう、明らかに気力のない顔をしている。
俺は一抹の脱力感を覚えて備え付けのキッチンに向かう。
「ブラックで良いですね?」
「おー」
新聞をガサガサやる音を聞きながら、戸棚に手を伸ばすと。
「来客用のやつな」
との追加が飛んできた。
「え、マジすか?」
「マジっす」
「依頼っすか?」
「正式には請けてない。上弦からの紹介なんだけどな」
上弦さん(30)は鵲さんの知人の刑事さん。
時々やってきては依頼の紹介や世間話をして帰っていく。
男の俺から見てもイケメンで、訪問の度に土産(割と高そうな菓子とか)を持参してくれる良い人だ。
「まああいつが言うならガチなんだろうけどな」
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