空の人

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 青年がやっと地上へ這い出た。  女は地下へと続く階段のほんの少し脇で二人組の男に組み敷かれていた。  一人は腕を掴み、もう一人は脚を押さえていた。女の服は破れ、顔には殴られた痕がある。  青年は唇の渇きを感じた。  女は青年に気付かずに泣き叫んでいた。  二人組の男は女に夢中だった。  青年は音もなく、近づくと、細くしなやかな指を首に絡ませた。 脚を押さえていた男は苦しいのか胸を頻りに掻き毟る。  ゴキンと嫌な音がした。  青年は構わず首を絞めた。  腕を押さえていた男は呆けたように口を開け、苦痛に顔を歪める相方を見つめている。  青年は無言で指に力を込めていた。微かに唇が弧を描く。  男はだらりと腕を下ろすが、青年は力を緩めなかった。  よだれを垂れ流し、ぐにゃぐにゃのゴム人形のようになった相方をみて、もう一人の男は叫ぶ。  獣のような叫びに青年は男が事切れていたことに気付かされた。  青年は声を上げて笑った。笑いながら死んだ男を投げる。  死んだ男は身体を壁に強かに打ち付けた。そして、もう二度と叫ぶことはなかった。  青年は獲物を目の前の男に切り替える。
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