+1 そのひきだしのなかには蒼い海

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かばんの中で、メールの着信音が鳴る。 RADWIMPS。君と羊と青。 誰だれのメールはこの曲で、誰だれのはあの曲、とか、 そんなことはせえへん。 あほらしいやん。……嘘。邪魔くさがってるだけかな、ごめんなさい。 でも、 今届いたメールがあいつからだろうということは、 たぶん、間違いない。……このぐらいの時間やと。 なんとなく諦めに近い感情。 フラップを開ける。 ーーーー 信ニ。3日かかって考えた源氏名は「魁玲」って。 それを告げられた時の、複雑な心持ちはまだ鮮やかに再現できる。 なにか、 なんでもいい。叫んでもいいですか。 違う。叫びたいんやなくて…… 眩暈。 半年前からはじめたホストという仕事は、 案外あいつに向いてるんやろな。 でも、あたしは客ちゃうやん…… このメールの文面はおかしいやろ。 殴んぞ。 返信しておく。 『信ニはこの時間、新規開拓の客引き中やろ?サボんな。』 まぁ、たしかに本名が信ニとか…… ほんまふつーに冴えへんけど、 そやからって「魁玲」はないやろ。 あたしの好きな画家からの1文字を…わざと使う、その神経。 そやけどどうせなら、「玲」よりは「麗」のほうがホストっぽくて良かったんちゃうかな……とか、どうでもええ思考がよぎる。 RADWIMPS。君と羊と青。 でも、信ニからのメールを、見ずに放置はできへんねんな……。 フラップを開く。 ーーーー また眩暈がする。ほんまに……。コロス……。 あたし、本上美和。(25)。 今は彼氏なし。短大卒業後はファミレス店員。(正社員。) あたしかて冴えへんけど。 そやからって、信ニの客には死んでもならんし。 .
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