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「今日午前6時、任務開始だ。それまでに各自確認した場所につけ。くれぐれも仕損じるな。
だが絶対に殺すな。これだけは尊守せよ。解散」
最後の解散という一言で、 朋康の前でただ聞くだけの存在のようだった男達は、逃げるように散らばった。
溜め息は大気に触れた瞬間から白く色づき、消えた。まだ十八を過ぎたばかりの青年は、朝の早い時間から、すでに通常の精神状態になっていた。空はまだ夜だが、雪雲が低く、大空を埋め尽くしているのがわかる。
今日はいつもより冷えている。
「どうしたんでえ朋。今日はいやに大人ぶってんじゃねえか」
いつから居たのか、すぐそばの木の隣に、勝は立っていた。朝に弱いはずの勝は、すでに出かけに行く格好をしていた。
何重にも着込んで少し太っているように見える男は、首に襟巻きをしている。
「勝先生!・・・まだ陽も上っていないのに」
「今日はやけに寒いな」
勝は、ううっっと唸ると、冷えたらしい手を袖の中に入れた。
「沖田は、まだ大丈夫なのか?」
「今日が潮時だと思います。逃したら、もう後が無いんです」
「・・・」
二人の居る広場は広く、江戸城の重厚な塀に囲まれていた。無血開城してからほとんど人通りの無いここは、深夜から朝にかけては誰も通らない。
「こりゃ、雪が降るな」
「・・・はい」
「降る前に、全部片付けろよ。そうでねえと、やつの身体が持たねえ」
「分かっています」
勝は甲斐甲斐しかった。
「お前、ホントウにやんのか?」
「はい。沖田殿も、きっと望んでいるはずです。どんな手を尽くしてでも、行けるものなら行くといいます」
「なら、いいんだがな。気ィつけていって来い」
「はい」
朋康が返事をしている間に、勝は背を向け歩き出していた。小柄なその男は寒さにひとつ震えると、言った。
「無茶はすんじゃあねえぞ。沖田は、お前じゃあ歯が立たねえからな」
朋康は返事をすると、先に動き出した者たちの後を追った。
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