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目が開けられない。
というより、あける力が出なかった。
空はすでに雪雲が立ちこめ、木には葉という葉がなくなっていた。ここが植木屋だからか、季節の移り変わりが露骨だった。雪こそ降っていないものの、今朝から降ってもおかしくない寒さだ。ふすまの隙間から漏れる風が、ここのところ落ち着く気配のない、熱を帯びた額を攫った。
そこでやっと、目が開いた。
この納屋のような、隠れ家のような六畳の仮住まいに来てから、すでに十ヶ月が経っていた。
「沖田総司は死んだ」という噂を流し、実際生きている沖田を新政府の目から外していた。
噂というものの広がりは速く、4月の頃よりは垣根の外を通る敵の声も聞こえなくなった。
何か変化はないかと自分のあたりを見回すと、そばに置いてあった桶の水が新しくなっていた。
それだけで、十分楽しめるような人間になってしまった。ほかには何もできないからだ。
あれから、「あの青年」はここを訪れる事はなかった。あの最後の日彼から手渡された小銃は、まだ懐に入れたままだった。
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