プロローグ

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あの日といっても、あの日から今日この時間までの記憶は、おぼろげでしかなかった。ここのところ、頭の方まで病が侵入してきていると、総司は確信していた。 たまにこうして眼が覚めると、世話の女中が泣いて走ってくるからだ。 そして今日も。   「沖田さん、わかりますか?おたかですよ!」    「ああ、わかりますよ」    「はぁ~・・・」    「私はまた2,3日寝ていたんですか」    「ですか、じゃありませんっ!・・・ズッ・・・」   この女中は、すぐに泣く。    「泣かないでくださいよ」    「そう思ってらっしゃるのなら、毎日ちゃんとご飯食べてください」    「ああ。・・・ちょっと疲れた。貴女がいると疲れるな~・・・」    「今お薬持ってきますから」   彼女が出て行ったあと、そのまままた眼を閉じた。 この調子だと、あとどれくらい持つのだろうか・・・ もう江戸、いや東京には、知り合いは居なくなった。 近藤先生はたぶん、もう居ない。土方さんは会津へ行ってしまった。今頃はどこを歩いているのだろう。伊庭さんも会津に行った。斉藤さんも。姉さんは庄内に移った。 周斎先生は去年亡くなった。ふでさんとつねさんは、お寺に隠れて生活している。おたまちゃんは大きくなっているだろうか。 永倉さんと原田さん、元気でやってるかな。松本先生は・・・松本先生も会津だったっけ。みんな会津好きだな~。 みんな、なんで行ってしまったんだっけ。
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