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いつもとは違う環境の中に、古屋晃祐(ふるや こうすけ)は埋もれていた。
明治9年4月―。幕末という動乱から未だ十年しか経っていない筈だが、国も町も人も、大きく変わっていた。
今は新政府の方針により西洋文化の浸透が図られている。しかし、遠く離れた地方のでは、未だ幕末の生活を保ったままだ。
ここは東京・警視局。明治3年頃に設けられた国直轄の自衛組織で、その大半は戊辰戦争を勝ち進めた薩長の面々から形づくられていた。
逆に、それに反対姿勢を崩さなかった会津藩を始めとする「旧幕府軍」や徳川びいきたちは、諸外国の技術を手に入れた薩長軍に膝を折らざるを得なかった。
目の前にテーブルを挟んで座っている結子(ゆいこ)は、急に嘲笑した。男からすると、女のこういったバカにする態度が気に食わない。
「何だよ」
「だってキョロキョロしてて田舎臭いんだもの」
きょろきょろするのも当然だろう。ついさっきまで雑司ヶ谷にいたのだ。
そこは木々の生い茂っている場所で、店は少なく、ただ民家と神社だけがある。とても静かなところで、そこも幕末の頃とあまり変わっていない場所のひとつなのだろう。
警視局の中は、役人やら悪人やらでごった返していた。巨大な扉をくぐってすぐのロビーに晃祐と結子はいた。ロビーの端にある海外製のテーブルと椅子に腰掛け、人を待っていた。
「遅いわね、宗次郎さん。どこをほっつき歩いてんのかしら」
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