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(くそっ……どこだ。見失ったか?)
人込みを掻き分け、進む。
目的であった筈の舞姫の輿さえも追い抜き、あたりの様子を窺い、一度だけ深呼吸をして、目を閉じる。
常人よりも優れた聴覚。喧騒で賑わう通りから、目的のモノを聞き取ろうとする。
すれ違う人々の賑やかな声に紛れ―――
「やっ……!」
「聞こえた」
小さく消え入りそうな悲鳴を、レインの耳は捉えた。
腰元から掌程の短剣を取り、声の先へと駆ける。
彼が目指していたのは舞姫ではなく―――何者かに追われている少女。
少女は助けを求めているのか、それとも何かを訴えかけているのか……ただ、舞姫の様子を窺いながら追っ手から逃れていた。
しかし、遠目から見ても幼さがある少女の足では大の大人2人の追手を撒くことは出来ず、祭りの喧騒から少し外れた裏路地へと追い詰められていた。
(あの鎧―――……)
少女に迫った2人組の男。
彼らの着込んだ鎧の肩口に、淡い蒼の星。
それは、ウェールズ王国の紋章。
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