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「実力があるからこそ噂があるんじゃないのか?
――ブラッディ・レインさん」
「変な名で呼ぶな」
――彼がこの国に来た時、激しい雨が降っていた。
降りしきる雨の中、彼はやって来た。
緋色の髪を濡らし、まるで血に塗れた姿で――。
その時の姿が噂になり、やがて“血の雨を降らせる男”と呼ばれるようになっていた。
「別に俺は、血の雨なんか降らせてない」
「だけど襲って来た賊をあっという間に血まみれにしたんだろ?」
「……それは……、正解だけど、ちょっと違う」
軽く眉根を寄せ、クロウを見遣る。
黄金の右目が、ゆらりと揺れた。
「……血まみれにはしたけど、殺しちゃいない」
「何それ」
ふは、と笑い、クロウは新たな客を席に案内すべくカウンターから出ていく。
(……血の雨、か……)
自身の掌をじっと見つめる彼に、外の騒ぎの声は聞こえない。
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