94人が本棚に入れています
本棚に追加
「――ア、アグレス国王……?」
柄にもなく目を見開き、わななく唇が零したその人の名。
そんな彼の様子を、満足げに微笑みながら見ている、ウェールス国国王――アグレス。
「何故国王が俺、……いや、私に――」
「そう固くならなくても良いよ。今日は公務ではなく私用で来ているのだから」
くっと喉を鳴らして笑いながら、国王は部屋の隅にある小さな棚を開けた。
「勝手知ったる人の店……まぁ酒でも飲んで緊張を解してくれないか?
この酒は私の好きな東の国の物でな。ロッドに無理を言って揃えさせたのだ」
くしゃりと笑ったその表情は、一国の王とは思えない程穏やかで、気さくであった。
国王が差し出した酒ではなく、彼自身が纏う雰囲気に、緊張が解れていくのを――感じた。
.
最初のコメントを投稿しよう!