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「頼みというのは――」
躊躇いがちに唇を開き、また閉じる。
そんなアグレスを真っすぐな金と黒の瞳が捕らえている。
最後の言葉まで、きちんと受け止める為に。
「頼みというのは……ある、少女の事だ」
“ある少女”
それだけで、レインの脳裏に昼間の少女が浮かんだ。
――と同時に唇は開き、アグレスに問いかけていた。
「それはクレアという少女の事ですか」と。
「な、ぜそれを……」
今度目を見開くのは、アグレスの番。
レインの問いかけに余程驚いたのか、腰を浮かせ、口を魚のようにぱくぱくとさせていた。
「今日、城に行けなかった理由はそれです。ロッドからお聞きではないのですか?」
「いや、ロッドには会っておらん」
気が抜けたように、椅子に座りなおし、一度大きく息を吐き出すと整えられた髪をぐしゃりと掴む。
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