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俺はぐらぐらとする視界のまま、頭の痛みを堪えながらうずくまる。
「……ったく、言っただろ。俺は生徒の頼みなら、できる範囲なら聞いてやるって」
「……」
……本当に霧島先生って人がわからない。
こんなにもすごい教師なのに、普段はなんであんなにもだらしないのだろうか。
間違いなく他の教師とは比較できないくらい、俺は尊敬できると思う。
同時に、呆れることも多いけど。
それでも、彼の言葉に大きく心を動かされた俺は、大袈裟に頭を下げていた。
そんな俺に少し驚いた様子の先生。
彼は少し困ったような表情を浮かべながら、俺にここで待っていろと言った。
「待たせたな」
数分後、いつも以上にラフな格好をした先生が二本の剣と、刀を持って帰ってきた。
そして、そのうちの一本を予想通り、俺に投げてきた。
今度は予想していた分、少しはまともに受け取ることができた。
軽く音を立てながら、刀は俺の手の中に納まる。
「抜け」
既に戦える、そんな様子の霧島先生は、俺を威圧しながら言い放った。
「……はい」
この間までの俺だったら、これにもう少しビビっていただろう。
だけど、今回はそんなことはない。
一瞬背筋に感じた寒気も、刀の重みも、全部すぐに飲み込んでしまった。
まるで、海水に多少の真水を入れてもしょっぱさがなくならないようなものだ。
俺にとってそれは、所詮その程度でしかないんだ。
俺は刀を鞘から抜くと、鈍く光る刃の先を先生に向ける。
「──行きます」
小さくそう言うと、駈け出した。
一歩、また一歩、地面を蹴って先生に近づく。
そして、力強く握りしめたそれを、勢いよく振り下ろした。
「……バカ野郎。それじゃあ、前と同じじゃねえか……!!」
霧島先生は右手に持つ剣で俺の攻撃を弾くと、もう一方を俺の首に突き付ける。
「気、抜くんじゃねえぞ?これは────」
──稽古であって、修業であり、殺し合いである。
ごくりと喉が鳴るのがわかる。
これは恐怖からか?
それとも喜びからか?
はたまた武者震いというやつか?
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