第一話 白い太陽

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 両親がいた頃は少々手狭に感じていたこのマンションの一室も、今となっては広すぎる。 「ごちそうさまでした」  朝食になったパン、コーヒーや、それらを買うお金を仕送りしてくれている両親に言うつもりで、声に出して"ごちそうさま"を言う。 「朝食も食べ終わったし、そろそろ出かける準備をしないと遅刻してしまう……。  ちょっと急ぐか」  とそこまで口に出して、僕は制服に着替え始めた。  最近、自分でも気付いているが、独り言が多くなってしまった。  家で言う分にはまだましだが、学校では気をつけないと。    φ   ――ガタンゴトン、ガタンゴトン―― 『私立ー夢望学園(ゆめのぞみがくえん)前駅ー  御降りの方はー右側扉からー……』  車内アナウンスを聞きながら、通学時にいつも読んでいる文庫本のページを閉じる。  ケンジがヨシタカさんに秘密の鍵のありかを教えてもらう、すごくいい場面だったが仕方ない。  本を鞄にしまって、席を立った。
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