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『おーい、るみ、何やってんだ?』
「何やってるって、仕事に決まってるでしょ」
左手に電話を持ち、右手はパソコンを打つ手を止めずに話す。
『お前、ばっかだなー。もっと要領良くやればいいのに』
「あんたにばかって言われたくないわ。あんたこそ…」
「…何やってんの?」
事務所のドアが開いて、竜二がニヤニヤしながら入ってきた。
ため息をつきながら携帯電話を切り、パソコンに目を戻す。
竜二はあたしのパソコンデスクの横に椅子を持ってきて座り、入力中のデータに目を通しながら言った。
「今日身内の内緒の合コンだって言うからワクワクしていったのに、本命来てなかったら、意味ないっしょ」
「ほ、本命!?」
「しかもこのデータ、来週中に打てば大丈夫だし」
痛いところ、つかれちゃった。
週末に一人のマンションにただ帰るのも寂しくて残業してました、だなんて、口が裂けても言えません。
「お腹空いただろ?帰ろ?」
子供のようにまんまるな瞳で、人の顔を窺うように覗きこんできた。
咄嗟に顔をそらす。
頬が真っ赤になってるのを気付かれるのが嫌だったから。
「あたし、合コンは行かないよ」
「仕事忘れてたって言って抜けてきたから、もう戻らないよ。俺の行き着けの赤提灯でも行かないか?」
おばさんが独りでやってる小さな居酒屋。
あたしもたまに飲みに行く処。
竜二が教えてくれたんだっけ。
「あそこなら、いいよ」
「よし!ちゃっちゃと切り上げようぜ」
バタバタと帰り支度をして、事務所の鍵を閉めた。
事務所のドアを開けた時、竜二があたしの背中に手を添えて先に出してくれて、また顔が真っ赤になったのは、竜二には内緒。
冷たい夜風が熱い頬を冷ましてくれた。
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