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電話は付き合っていた彼の同僚、坂口からだった。私も何度か会った事がある。
「ミズキちゃん、久しぶり。」
「お久しぶりです。」
何だろうと訝りながら一言二言、坂口と話をした。別れた彼の話だ。
「ごめん、ちょっと代わるね。」
会話が途切れたところで突然坂口が言った。数秒後、元彼の声が電話口から聞こえてきた。
「ミズキ……」
呼びかけられたが私は返事ができなかった。凍りついたように受話器を握りしめ固まっていた。
「元気?」
私はまだ固まったままで一言も発する事ができなかった。殺気を感じて振り返ると後ろで母親が何かを察知して固い目で私を凝視していた。
無言の私に彼は続けた。
「あれからいろいろ考えたんだけどやっぱり俺にはミズキが必要だってわかったんだ。ミズキがいないとダメだって。」
そんな言葉も私を溶かさなかった。ただ彼の声に凍りついたまま何も言えずにいた。遠くの方から彼の声が聞こえてくる気がした。
「結婚してくれないか。ミズキ、話がしたい。」
彼の言った事は私を揺らさなかった。やはり何も言えなかった。
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