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繁華街のコインパーキングに車を入れて歩いて映画館に向かった。
着いた時には予告編が始まっていたが空席があったのでなんとか座って見られた。公開されたばかりのSFアクション系の映画でほぼ満席に近かった。
早川は映画に集中しているようだったけれど私はその間もずっと緊張していた。
エンドクレジットが流れ人の入れ替えが始まるとぼんやりしていた私の手を早川が取って出口まで誘導した。
片手で押し寄せる人波をかきわけもう片方の手で私を出口へ引っ張ってくれた。
たったそれだけの事なのに私の心臓は早鐘のようにどきどき、どきどきした。なぜそんなに緊張しているのかわからなかった。
そのままずっと手を引かれていたかった。強引ではないけれど強くてしっかりとした手。大人の男の手。
なんとか人波に逆らってホールまで出ると早川はごく自然に手を離した。人波の中に私が流されないようにしただけのことでほかに何の意味もないという感じ。私はちょっとがっかりした。
「飯でも食おうか。何がいい?」
早川は言った。
「早川さんは何が食べたい?私は何でもいい。」
早川の端正な横顔を見上げて私は言った。食べ物なんて喉を通りそうもないほど舞い上がっていたから。
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