first chapter

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二人は、出逢ってしまった。 悲しい恋に終わるとも知らず。 深い、深い森の中、彼は気付いた。 自分とは違う、人の気配。 少し先に居る相方の動きを左手を向けて制し、自らも振るっていた剣を降ろして振り向く。 「君は……?」 鼻先がようやく見える程にまで深く被ったフードの下で唇が動き、静かな声が洩れた。 彼の名はフレン・ド・ロス・クレネイド。 この“人間万国”の若者の一人であった。 「……シャルナン・ミレイ・シェーンベルク」 少し間を置き、フレンの問い掛けに女性・ミレイは淡々と答えた。 柔らかく垂れた目、 何処か寂しげな黒い瞳、 薄紅色の唇、 長く美しい漆黒の髪。 フードの下でフレンの頬が僅かに朱に染まったのを、相方の青年は確かに見た。 珍しいなと思う。 それまで他者とは必ず一線を引き、関わりを避けていたフレンが興味を持つ女性など。 そんなフレンを横目でチラリと見た後、青年はミレイに目を戻した。 胸元まであり左の肩あたりで緩く纏めた鳶色の髪を手櫛で梳(ト)きながらも、少し吊り上がった目はミレイに向けたまま口を開く。
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