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エリダナ・チェローミア・マナ・フロザリン・アビガイーヌ・ヴィア・クランジット・サス・ラスタバン
そこまで書き上げた姫は、大きく息をついて顔を上げた。まったくどうして、自分の名はこんなに長たらしいのだろう。けれど、とうとうやり遂げたのだ。姫の顔は、満足に光り輝いた。
以前、外の者の名が一つしかないと聞いて羨ましがったら、とんでもないと養育係のシャーリンが怒った。どれもこれもクランジット家の由緒ある名前ですと、すごい鼻息でまくし立てられる。けれどシャーリンは三つしか名前がないから、それがどんなに迷惑か分からないのだ。
――もっと短かったら、タニヤザールにあんなコト言わせないのに!!
彼の仕打ちを思い出し、姫のはらわたは煮えくり返った。あの男は、たかが家来の分際で、王女に対して頭ごなしに命令し、非礼極まる言葉を遠慮も無く投げかける。
先日などは綴り方の時間に急に姿を現し、それまで必死に書いていた答案用紙を覗き込み、ぷっと小さく笑ったものだ。
「姫君は、おいくつになられたのですか? まだご自分のお名前が、満足に書けないとは……」
それを聞いた若い女教師の顔に苦笑が浮かび、あまりの屈辱に目がクラクラした。授業が終わるや否や、一仕事終えのんびり寛いでいる父王の所へ飛んで行った。
「お父様! あの男を死刑にしてください!」
「あの男?」
「タニヤザールです! あの無礼者の給仕長です!」
姫の剣幕に押され、眉を寄せた王はもごもご口を動かした。
「ああ、彼がいないと私が困るが……一体何があったのだ?」
そこで、一国の王女がいかに辱めを受けたかの一部始終を訴えると、父はいきなり怖い顔を向けて叱ったのである。
「お前はまだ名前も書けないのか!」
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