7人が本棚に入れています
本棚に追加
父王レナルスード四世は、朝の九刻から執務室に籠もって仕事をする。公文書室の室長の持ってくる山のような書類に、ひたすら国王の玉璽を捺すのだ。時折、書類の文字を追うこともあるが、思いは殆ど昼食の献立に奪われているようである。
半月ほど前、仕事を終えた王の退出後、執務室にこっそり入り込んだ。姫にとってこの部屋は奥深い山の中で、大きな執務机の下は義賊の隠れ家なのである。玩具の剣を腰に、横暴極まりない王の圧政に怒りを覚えつつ潜り込むと、奥の方に何やら白い紙が落ちていた。拾い上げて書かれている文字に目を通す。が、さっぱり分からない。その内執務室に入って来た者達がいて、慌てて部屋のあちこちを探り出した。
「馬鹿者! 一枚足りないと何故気づかない!」
苛立った叱責に、若い情けない声が応える。
「申し訳ありません。ちゃんと確認したつもりなんですが……」
「お前は、いつも『つもり』ばかりでないか! 死刑執行書は再発行が面倒なのだぞ! 見つからなかったら、こちらも始末書を書かねばならん」
――死刑シッコーショ!
その言葉に姫は手元の紙に目を見張り、急いでエプロンの胸当ての中に押し込んだ。すぐに衣擦れが近づく気配がして、黒い影が机の下を覗き込む。
「悪の手先め!」
姫は叫び飛び出すなり、突き出された光る頭を玩具の剣で一撃した。警護隊長直伝の一刀は見事にきまり、公文書室長が目を回してひっくり返る。
「ああ! 室長殿!」
若い職員の悲鳴を背に、姫は執務室を飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!