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斥候ごっこをして柱の陰に潜んでいると、廊下の向こうからヴァーリックがやって来た。日ごろ大好きな隻眼の顔も、この時は油断ならない敵兵と身構える。そこへ、副隊長が彼を呼び止め、先日死刑が決まった事件が、実は冤罪だったそうですねと声をかけた。死刑執行書の発行が遅れているうちに、真犯人が捕まったらしい。ヴァーリックは強面をしかめて憤慨した。
「まったく我が国の警察は何をしているのか!」
「まあ、検察のメンツは潰れましたが――」
その死刑囚某は命拾いしましたなと、呑気に笑った副隊長から囚人の名が語られる。
エンザイは何だか分からないが、シッコーショが遅れたとは、先の書類に違いない。つまり死刑囚某は、書類に書かれた名前なのだ。綴りはよく分からないにせよ、似たような言葉を捜せば見つかるかもしれないと、急いで部屋へ戻った。書類に目を走らせ、一番下、行を新たに書かれた単語に見当をつける。横にヴァルドとあるので(これは何とか読めた)、名前がこれ一つだけと言うのも確実だ。この死刑囚の名の代わりに、タニヤザールの名を入れてしまえば、完璧な死刑執行書が完成する。
姫の計画は大きく前進した。
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