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欧州連邦軍軍事拠点アビアノ基地のどことも分からない廊下を、ユイは宛も無く歩いていた。
顔は俯いているが、目の焦点は合っていない。ただひたすらに動かしている足は、どこかへ向かうではなく、何かから逃げようとしている様に見えた。
理由は過去の事件、1年前のGR38事件の真相が明らかになったからだ。
当時、同じ部隊に所属していた戦友のマックスを殺害し、ユイは罪を背負う事となる。しかしそれは仕組まれた事で、実際はマックス殺害は部隊の一部が共同して行い、口裏を合わせてユイに罪をなすりつけたのだ。
真相が明らかになってユイは無罪放免、軍部復帰も認められた。それは本来良い事のはずなのだが、ユイにとっては絶望の始まりでしかなかった。
何故なら、その事件の首謀者は、ユイが最も尊敬し、敬愛する人物。当時、部隊の隊長であった、ジャック・ケプフォードその人だったからだ。
ユイは嘘だと思いたかった。軍部復帰なんてどうでもいい。無罪放免にならなくても構わない。ただ今の現実を否定してほしかった。
サクラ「―――ユイ?」
不意に声がした。不思議とその声に反応したユイは、おもむろに足を止めると、正面に立っていた人物に顔を向けた。
ユイ「……サクラ」
そこにいたのはサクラだった。自分のせいで巻き添えを受けた、民間人の少女。
彼女を助ける為に自らの無罪を証明しようとしたのだが、今のユイはその事さえ忘れていた。
サクラ「どこに行ってたの。心配した……ユイ、何かあったの?」
サクラは直ぐユイの異変に気が付いた。咄嗟に顔を反らすが、彼女に頬を触れられ、顔を覗き込まれる。
まるで心の内を見られているような感じだった。今の自分の、脆弱した心中を、サクラにだけは見られたくなかった。これほどみっともない自分の姿を、サクラにだけは。
サクラ「……泣きそうな顔してるよ。何かつらい事があったの?」
完全に見透かされているようで、ユイは何も答えられなかった。
すると突然サクラは―――
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