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僕は朝早くに起きた。それは自然と目覚める心地よさとは正反対のもの。部屋のドアがけたたましく叩かれ、無理やりにこじ開けられた音によってだった。
「なんで見合いなんかするのっ」
予想通りの言葉で、予想通りのやつが入ってくる。
「ツィーニ……今何時だと思っている」
朝があまり得意ではない僕は、揺らぐ頭を抱えながら、ぼそりとつぶやく。
「五時!」
「そうじゃなくて……」
ブラコンな弟は、まだベッドから体を起こさない僕の横に立つと、なんでどうしてとわめく。
「……僕ももう身を固めないといけないからな」
あれやこれやと説明するのが面倒で、僕はなんとなく答える。
「うそだあ」
「じゃあうそでいい」
もう寝かせてくれないか、と僕は布団を頭までかぶる。
「あきらめたの?」
ツィーニの言葉に全身でため息をついた。
「マリーのこと」
「あきらめたあきらめた。あいつはミズキといれば幸せなんだから」
「……じゃあなんで、イチハは胸の証を消そうとしないの。マリーにつけられた証を」
僕はぎゅっと布団を握る。うるさい、そう思った。
「じきに消える」
「どうかな」
僕はツィーニの言葉を無視し、目をつむる。かたくつむっていると、いつの間にか寝ていて、目を覚ましたときには昼前だった。
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