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「あら、ごめんなさい」
全く悪いという素振りも見せずに、マリーは部屋に入ってくる。入っていいかどうかくらい聞け、僕はゆるむ口元に気づいた。
「最近悩んでいるようだって聞いたから、色々持ってきたわよ」
マリーは僕の前の机に見慣れたバスケットを置く。ぷわん、と草のにおい。
「これが、ラベンダーの薬湯、で、こっちが色々詰め合わせたちょっと冒険タイプの薬湯」
「……ちょっと冒険タイプ?」
「詰め合わせすぎたから、においがね、キツいかもと」
マリーはそう言うと、じゃ、と逃げるように部屋を出ようとする。
「待て」
あと少しでドア、というところで呼びかける。ぴたっと止まるマリー。しかし、こちらを向く気配はない。
「私、犬の散歩がっ」
「ちょ、おい、」
マリーはたたたっと行ってしまう。
「犬なんか、飼ってないだろう」
僕はバスケットの中から不気味な色をした丸い薬を手のひらで転がす。
「……何か、言いたいことがあったようだったな」
マリーの後ろ姿が、やけに引っかかる。悩みが余計に増えたぞ、マリー。僕はバスケットを持ち、浴室に向かった。
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