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私-わたくし-は、黒の姫。
名をコクハ・シャドー。
黒く黒く染まった髪を風に靡かせ、黒の国を見据える気高き姫。
…なんて言うのは仮の姿で。
本当の私は、黒く黒く染まりきった、絶望の刀。
この黒の国に君臨する、黒王の為の刀だったの。
何を思ったか、刀としての生を終えた私を、神は人間に生まれ変わらせた。
数年前まで、その刀としての記憶を失っていた私。
それが、ある方との出逢いの中で覚醒した。
今や憎き敵国となってしまった白の国の、白く気高い姫との出逢いで。
絆を築き上げようとしていた、最中で。
あの方は、酷く苦しんでいた。
哀しいくらいに。
涙を流し、苦悩し、傷を負いながらも…
私を最後の最後まで、引き戻そうとしてくれていた。
まだ白かった、あの頃に。
純粋な笑顔だったと言う、初めて逢った頃。
それでもなお私達は、幸せがずっと続くと信じていた。
まだ戻れると思っていた。
黒の闇に呑まれながらも、まだ希望はあると。
この戦が始まって、白の姫が私と剣を交えるまでは――。
そこまで考えて、私は首を振る。
哀しんでいても仕方の無いことだと、自分自身に言い聞かせ続けてきた。
それは今も例外では無い。
ふう、と大きく息をつき、椅子に座り直す。
窓の縁には、小鳥が二羽とまっている。
全く、城の生活ほど暇なものはない。
日がな一日、王の間に座っていなければならないし、黒王が仕事をサボったりすれば、その余った仕事がこちらへ回る。
周りに家臣も誰も居ないことを確かめ、伸ばした背筋をほぐして行く。
少し姫としてはだらしないが、まあ良いだろう。
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