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お彼岸を少し過ぎた金曜日の朝、福井進二は夜勤帰りのけだるさを覚えながら、大きく一つ伸びをした。
明るい朝の日差しの中を小学生が歩道をいっぱいにしながら、塊(かたまり)となり、進二の方へ一気におしよせた。
「う、うわっ、やべっ、反対側通るんだったなぁ。あれ?圭じゃん。おい、おはよう、圭!」
進二は小学生の群れの中に、息子の圭を見つけた。
「あっ、お父さん。行ってきまぁす。」
「おっ、運動会の練習か?しっかり、がんばれよ。」
息子のくりくりした目を見ながら、軽く手を振った。
小学生の群れを見送って、自宅の方へ身体をひねると同時にトンと柔らかい物がぶつかってきた。
「あっ、すいません。ごめんなさい。」
「あっ、いや、こっちこそ、、えっ!」
進二は、ぶつかった相手を見て、思わず見とれていた。
「すみません、子供達に気を取られてて、、。」
「あっ、いや、俺もつい油断して、でもラッキーだな。こんな美人にぶつかってもらえるなんて。」
「えっ?まぁ、美人だなんて、お上手ですね。でも、ありがとうございます。すみません、これから仕事なんで、失礼します。」
「あっ、そうなんだ、残念。俺も家に帰らなきゃ。そこの団地に住んでる福井っていいます。あっ、名前関係ないですよね。ごめんなさい、どうかしてるな、俺は。」
「いえ、ここの団地でしたの?私もここですよ。あの、阿部って言います。あっ、私もなにを、、、。じゃぁ、仕事行かなきゃなりませんから。」
「えっ、あっ、すみません。それじゃ。」
進二は偶然とはいえ、美人と話が出来たことが嬉しくて、思わず口笛を吹いていた。
(美人だなあ。圭のおかげだな。きょうは、良い夢見られそうだな。)
にやにやとしながら、進二は自宅へゆっくりと歩きはじめた。
「ただいま、帰ったよ。」
「あっ、お帰りなさい。お疲れ様。ご飯にします?」
「うん、朝ご飯食べてから、お風呂にするよ。」
妻の紀子が、みそ汁を温めはじめた。
「うん、いい匂いがしてるなぁ。お腹ペコペコやわ。あっ、さっき圭におうたよ。運動会、日曜日やったね。」
「えぇ、そうよ。ちゃんと覚えててくれてるんね。やっぱり、あんたやわ。」
嬉しそうに、紀子が台所から振り返り微笑んだ。
「大事な子供の一大イベントだよ。忘れたら殺されるよ。」
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