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「もう、冗談ばっかり。うふふ、おかしい、、。」
妻の明るい笑い声に、進二は照れながら、朝食を味わっていた。
朝食を済ませ、入浴前に、
「紀子、この団地に阿部さんていたかなぁ?」
「阿部さん?確か、うちの裏側の角だったかな?どうかしたの?」
けげんそうな表情で、妻に聞き返され、
「いや、今朝、道でぶつかっちゃってね。軽く当たった程度だったけど、その時あいさつしたんだ。」
「あぁ、奥さんの方かな?あなた、忘れてるの?圭の担任よ。」
「はっ?小学校の?先生か!あれま。」
「やだ、知らんかったん!大変!ちゃんとあいさつしたの?」
「し、したよ。ちゃんとね。」
慌てて、風呂場に飛び込み、
(あっちゃあ、圭の担任かぁ。まぁ、大丈夫かな。しっかし、近所にあんな美人がいたなんてなぁ。びっくりだ。)
ザブザブと顔を洗いながら、今朝の出来事にトキメキを感じている自分自身に、進二は、驚いていた。
(なんか懐かしい感覚だな。一目惚れってか?まっ、家庭があるからな。 でも、えぇ女やったなぁ。)
進二が風呂から上がると、紀子が仕事に出かけ、テーブルにメモが、
『お仕事、お疲れ様。今日は遅くなるので、夕食は外で食べて下さい。紀子』
(あらら、そうかぁ、今夜は送別会とか言ってたな。)
妻の紀子は、市内の商社のOLを結婚後も続けていた。
(人事移動のシーズンやもんなぁ。仕方ないな。)
進二はそう心の中でつぶやくと、早めに布団に潜りこんだ。
息子の圭が帰ってきたのは夕方五時前だった。
「お父さん、ただいまぁ。つかれたぁ。お風呂に入ってくるわ。」
「お帰り、圭。きょうは、お母さんはちょっと遅くなるから、外で食べるからね。お風呂で綺麗にしておいで。」
「は~い。」
そういうと、まちきれなかったかのように、圭は浴室まで走って行った。
「こらこら、静かに入るんだよ。待ってて上げるからな、しっかり汚れを落とせよな。」
走り出す子供に声をかけながら、進二は、身支度を整えていた。
息子の圭が風呂から出て、進二といっしょに出かけたのは六時を少し回っていた。
「お父さん、今朝、阿部先生となんかあったん?」
「いや、なんにもないよ。歩道でちょっとぶつかって、あいさつしただけや。」
「なあんだ、そうなんや。」
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