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息子の圭とたわいのない話しをしながら、近くのお好み焼き屋で食事をすませた。
夜の9時前に進二は、妻の紀子の帰宅前に、夜勤の仕事に出かけた。
その日の夕方、阿部かえでは夕食の買い物をしながら、生徒の一人との会話を思い出していた。
『先生、朝、ぼくのお父さんと話してたでしょ。』
『えっ?お父さん?あぁ、福井君のお父さんだったの。同じ町内だったわね。うん、挨拶をしてただけよ。どうかしたの?』
『ううん、ちょっと気になったから。』
『そう、ふうん。福井くん、ご近所付き合いってわかるでしょ。あいさつは大切なのよ。』
ドキドキしながら、生徒の様子を見ている自分自身に、彼女はおどろいていたのを覚えていた。
なんということのない会話だったが、今朝の男性が生徒の父親だと知って、少しがっかりしている自分に、内心おもしろがっている自分がいた。
(ちょっといい男だったなぁ。生徒の親ってのわ残念だけど、、。やだ、なに考えてるの!)
自分の気持ちを打ち消すように、軽くかぶりをふり商店街を歩きはじめた。
「ただいまぁ、梢ちゃん。いい子にしてたかなぁ?」
三歳になる自分の娘を抱き上げながら、かえでは母親の顔に戻っていた。
「ママ、お帰りなさい。いい子にしてたよぅ。先生に褒められたし。」
「へぇ、先生にほめられたんだぁ。ママも嬉しい。」
梢を抱きしめ、かえでは、母親の幸せを感じていた。
この春から、保育園に通いはじめた梢の成長を、かえでは感じていた。
「かえでさん、お帰りなさい。お疲れ様。梢ちゃんママが帰ってきたから、おばあちゃんはお家に帰るわ。ママの言うこと良く聞くのよ。」
奥から、義母の久子が声をかけた。
「あっ、お義母さま。梢のお迎え、ありがとうございます。ゆっくりなさってらしたら、よろしいのに。」
「いいのよ、かえでさん。お父さんが、家でまってますから。じゃあ、また明日ね、梢ちゃん。」
「はい、おばあちゃん、また明日も来てねぇ。」
梢が、クリクリした目で、義母に手を振った。
義母が、車で帰るのを二人で見送った。
「おばあちゃんの言うことを良く聞いたのね、梢ちゃん。ご褒美に美味しいご飯をつくるから、まっててね。」
「は~い、待ってまぁ~す。」
無邪気な返事を背中で聞きながら、かえでは夕食の仕度をはじめた。
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