出会い

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 日曜日の朝、進二は妻に言われPTAの役員として、一時間早めに家を出た。 (ていのいい、ただ働きやな。まっ、役員だからなぁ。)  職員と協力して、最後の点検や、賞品、PTA競技の準備を終わると、運動場には人が集まり始めていた。 「福井さん、もう少ししたら開会式ですね。ぼちぼち、自分達の席に戻りますか?」 「えっ、そうですね。準備もすみましたしね。」  同じように、早く来ていた顔見知りのPTA役員の男に、相槌を打ちながら早々に自分達の席に戻った。 「お疲れ様、あなた。今年だけだから、我慢してね。」 「うん、回り持ちだからね。子供がお世話になってるから、仕方ないよ。」  妻の言葉に進二は、うなずいていた。  開会式が始まり、運動会のプログラムが淡々と進行していった。  お昼も過ぎ、教職員競技の借り物競争が始まると、あちこちで爆笑がおこり、和やかに進んだ。  最後の組になり、進二の目の前に、一人の女教師が立ち、 「どなたか、お父様方で出ていただけますか!」  困り切った顔で声を張り上げ、進二の方を指差していた。 「あなた、行ってあげたら?」 「ん?俺!わかった、行ってくるわ。」  照れ臭そうに立ち上がり、グランドへ入った。 「すみません、よろしく。」  こちらこそ、と頭をかいている進二を無視するように、その女性教員はテキパキと二人三脚の形に足を結んだ。  進二は何気なく、その女性教員の横顔を見た。 (えっ?!おとといの!)  驚きと少しの期待をこめて、進二は素早く相手の腰に手を回した。 「じゃ、行きますよ。」 「えぇ、イチニ、で、」  かえでの腰に手が触れた瞬間、ビクッと彼女の身体が緊張するのが進二にもわかった。  しかし、なにも言わずイチニ、イチニと二人三脚で走りだした。 「ガンバってぇ、おとうさぁん!」  妻の声を聞きながら、邪念を振り払うようにゴールへ駆け込んだ。 「福井君のお父さんでしたのね。ありがとうございました。助かりました。」  汗の噴いたかえでの顔を、美しいなぁ、と感じながら、 「こちらこそ、圭がお世話になってます。打ち上げには参加されるんですか?」 (だめだろなぁ。でも、、。) 「えっ?あっ、わかりませんが?」 「ですよね。つい、先生が綺麗だから、気にしないで下さい。」
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