0.氷鳥香月の残念な誕生日

2/8
前へ
/64ページ
次へ
『残酷なニートのテーゼ、窓辺からやがて飛び立つ──』 寝ている俺の枕元で携帯のアラーム機能が作動したのか、非常に爽やかな音楽が俺の朝の目覚めを迎える。 寝起きが割といい方の俺は、未だ『青年よニートになれ』と歌い続ける黒い携帯のアラーム機能を解除しても、二度寝なんかしない。 「ふぁ~、良く寝たな」 毎朝恒例の寝起きの伸びをして、携帯で現在の時刻を確認すると七時十分。 朝のHRが八時半からで、学校まで徒歩三十分だからまだまだ時間に余裕がある。 俺は、布団の片隅に置いておいた体温計で体温を計る。 ぴぴっと機械的な音が鳴り、現在の体温が表示された。 「うっし、平熱。体調も良くなったし今日から学校に行くかな」 昨日まで風邪で寝込んでいた俺は、俺の為に頑張ってくれた一夜の相棒である冷えピタを剥がしてゴミ箱に投げ捨てる。 が、そううまく入る筈もなくゴミ箱の傍らに落ちてしまった。 ──すまない、相棒。 一発で入らなかったので、結局拾いに行ってゴミ箱に直接捨てるハメになった。 いつまでもこんな事はしていられないので、俺はさっさと布団を片付け学校に行く準備を始める。 俺の両親は既に他界してしまっているので、必然的に自分の事は自分でやらなければならなくなった。 母さんは俺を産んだ時に力尽き、父さんは俺が小学生の時に過労死した。会社って所は恐ろしい場所だと、当時小学生だった俺は記憶した。 そして、中学から独り暮らしを始めた俺に死角はない。 当然、自炊もできるようになり、将来は専業主夫も夢ではないかもしれない。 俺は基本できる男だ。……友達がいないという事を除いて。 そんな事を思いつつも学校に行く支度は怠らない。朝食をとり、朝のおトイレも済ませ、歯磨き、制服への着替えも終える。 最後にジャンパーを着て、マフラーと手袋を装着して準備完了。 俺は誰もいない部屋に向かって「行ってきます」と言って部屋を出た。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

212人が本棚に入れています
本棚に追加