0.氷鳥香月の残念な誕生日

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部屋の鍵を閉め、築三十年のアパートから出て学校に行くために商店街を進む。 辺り一面銀世界で、今も空から真っ白な雪が降りてきている。 吐いた息も白く、十二月の寒さがジャンパー越しに俺の体温を奪っていく。 街ではあちらこちらに派手なイルミネーションが施されていた。 そういえば今日は十二月二十五日。世間一般ではクリスマスと言われている日だったな。 まあ俺に限り今日は俺の誕生日だ。俺の誕生日は俺個人のものだから俺に限りと言うのも当然か。 俺が歩いている隣では、小学校低学年だろうと思われる集団が楽しそうにお喋りをしていた。 「今日ね、ぼくサンタさんからプレゼントもらったんだ!」 「あたしも貰ったよー」 「あたしもー」 「ぼく、サンタさんに会いたかったなー」 そんな、クリスマス恒例の赤い服のおじさんについて話している小学生を見て俺は思った。 ──この子供達の夢が壊れるのはいつになるのだろうか。 俺の夢が壊れるのは早かった。当時小学生で父さんが生きていた頃は、俺はサンタさんの存在を疑わなかった。 今の子供達の様にサンタさんを信じ、いつかサンタさんとお話しがしたいと目を輝かせ、無垢な願いを持ち続けていた。 だが、父さんが他界した年の今日、今にも天国に昇っていきそうなお祖父ちゃんの家に引き取られていた俺の下に、サンタさんは来なかった。 翌年も。翌々年も。 俺は幼いながらに理解した。「ああ、サンタさんはいないのね」と。現実を知った瞬間だった。 それ以来、サンタさんの存在も消え、祝い合う両親も友達もいない俺にはクリスマスというものはただの苦痛でしかなくなった。 特に、クリスマスデートとか言ってイチャコラしている奴等を見ると、なんとも言い難い思いが込み上げてくる。 俺は誕生日でクリスマスのダブルでめでたい日なのに、誰にも祝われる事なく一人ひっそりとケーキの蝋燭の火を吹き消す。 周りの奴等はキャッキャッウフフと楽しそうに過ごしている。 ……クリスマス無くなればいいのに。
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