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俺の住んでいる所は市ですらない。村だ。昔から住む土着の者ばかりな、閉鎖的な村。
閉鎖的、というと語弊があるな。余所者を嫌ってる、ということじゃない。余所者が来るような所じゃない。
名所もないし、産業もない。名産もない。
ので、余所者が来る訳がない。
取り柄と言えば自然が豊かなこと。でもそんなんで人はこない。
観光がないので余所と交流がないのだ。
もっとも俺たちはその自然のために此処へやってきたが。
でも俺たちも完全な余所者ではない。祖父母の代までここに住んでいた。
まぁ要するに出戻りだ。
でも俺は初めてこの地を踏んだ。
俺が生まれる前に祖父は他界。祖母は物心つく前に心臓発作で鬼籍の人になってしまった。
祖父母が暮らした屋敷は一年に二回ほど母が手入れしていた。
いずれは移住する気だったのだ。時期は分らなかったが。
母もここの出身なので、その誼(よしみ)で近所の人が掃除などをしていてくれたらしい。
長年空き家だったにもかかわらず、主人のない屋敷は泰然と構えており、新たな住人を迎えた。
広くて窮屈だった。
始めて還ったこの血に流れる故郷は、甘くも懐かしくもなかった。
村人は俺たち一家をあたたかく迎えて村人は俺たち一家をあたたかく迎えてくれた。
それが去年の夏。
新学期から学校に通いだし、あいつらに出会った。
あれから、もう一年か。
あの頃と同じ青い空を見上げた。
腕時計を見て感慨に耽るのを止め、自転車のペダルを高速で漕いだ。
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