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森は陰鬱に息を潜めていた。
夏真っ盛りだというのに、そこは薄暗かった。光を求めて縦横無尽に広がる枝葉は、地面から光を奪っていた。落葉は湿り気を帯びて腐り、肥沃な腐葉土と化していた。
(確かこのあたりだったと思うんだが)
足跡など残らない。絞り粕のような日光が仄かに照らす獣道を進む。学園の制服を纏い、手首の皮膚が少しめくれたその人は、黙々と歩を進める。
(あぁ、見つけた)
視線の先には目映い空間。彼は思い出していた。この森には、そこだけ木が一切なく、日の光がふんだんに降り注ぐ円状の広場があることを。妹とはしゃいだ思い出のその場所を見つけ、彼の歩みは少し速まる。
(懐かしい)
外界から隔絶されたその広場こそ、彼の幼少期の故郷。何も知らず、何も縛られず、無垢に過ごした心の拠り所。
(先生いるか?)
広場まで、後少し。はやる気持ちを抑えることなく、最後には少し駆け足になりながらその広場へと辿り着いた。
(は?)
浮ついていた気持ちは、広場の全貌を見て引き締まる。
あからさまな違和感がそこにあった。
(なんだ、ありゃ?)
ルジッツ=ドロシアは、棒にくくりつけられ、力無く俯く子供を見つけた。
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