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ものすごい殺気だった。幾十もの眼から放たれる狂気に満ちた視線。それらが迷いなく、360度全てから俺達に向けられている。
「どうするよ、これ」
「潰す」
やれやれ、殺気だってるのは魔物達だけじゃないらしい。俺の隣にいるヤツも、まさに噛みつかんとする勢いである。
愛刀を月光に煌めかせ、口角をつりあげる。戦闘狂なその性格は相変わらずなんだな。
「意気込むのはいいけど足引っ張るなよ?」
「あ? 誰に言ってんだお前?」
おっと、軽口が過ぎたようだ。殺気ムンムンの視線が俺にまで向けられる。標的への仲間入り、一歩手前である。
「ハハハハ」
思わず笑いが漏れる。体が熱を帯びていく。興奮という名の感情が俺の心を支配し、そのとめどない衝動は俺の表情までにも影響を及ぼし始めた。
俺達のなめきった態度に腹を立てたのか、異形の犬のような、せっかちな魔物が目を血走らせて俺に飛びかかってきた。すぐさま俺も刀を呼び出し、それを直視もせずに斬り伏せる。
血化粧が施された草原を、風がなぜた。
「はっ、テメェもかなり歪んでやがるな」
「お前にだけは言われたくない」
生温い血を浴びる。お前と違って俺は血を浴びてテンションの上がる人種じゃないんだよ。俺のテンションが上がるのは、闘いという場に身を置けるからだ。
嗚呼、この世界はなんて刺激的なんだろう。ファンタジー展開に最初は戸惑いはしたものの、今やすっかり、この世界に惚れ込んでる。そして、不思議だ。
殺し合った相手と共闘することになるなんて────
「俺もお前も、ここで足止め食ってる場合じゃないだろ」
────守ると決めた。そのためなら、俺は何だってしてやる。
「いくぞ」
「ああ」
夜空には、三日月が笑っていた。
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