-発端-

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   携帯を見ると時刻は7時過ぎ。夏真っ盛りと言っても、薄暗くなってくる時間だ。電柱に光が灯り始めた住宅街を歩いて家を目指す。まあ特に急ぐ理由もない。ゆっくり帰ろう。  家に向かって黙々と歩き続けていると、みそ汁だろうか、お腹を空かせる香りが漂ってきた。週末の晩御飯時。一家団欒の家も多いだろう。一人暮らしには羨ましい限りだねぇ。  来週に三者懇談があるけど、それこそ縁のない話なのだ。両親は近いところにはいないし、わざわざ遠路はるばる来るほどのことでもない。だから三者懇談期間は俺にとっての休日だ。  一人暮らし――そこに寂しさを感じることはないことはない。ヘトヘトになるまで部活をし、家に帰ったらあったかい晩御飯が待っている、なんて生活に憧れはすれど、別にどうということはない。  これは俺が決めたことだ。  決めたことは最後までやり通す。少し考え方を変えれば1人暮らしの家なんてただの宿り木に過ぎないじゃないか。食べて、寝て、起きるだけ。日中は外で飛び回り、疲れたら帰ってくるというだけの話だ。だって、家の外で過ごす時間の方が長いんだから。  学校に行けばアイツらみたいな気の合うヤツらがいる。寂しいなんて微塵も思うことはない。俺はあの5人の輪が好きだからな。
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