-発端-

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   ニャー、と。  鳴き声を聞いて我に返る。見ると猫がこっちを見ていた。首輪がないからたぶん、野良猫だ。  どうも、今日は考えすぎてしまう日らしい。何でこんな自分に言い聞かせるようなことしてるんだろう。きっと疲れたんだな。慶佑とのダッシュのせいだ。よし、慶佑のせいにしておこう。  5人の中で疎外感なんて感じてたまるか。軽く自己嫌悪だバカヤロー。アイツらにも失礼だ。  猫がトンッ、と飛んで家の塀に器用に登る。いいなあその運動能力。俺にもそんなのがあったら屋根の上を縦横無尽に飛び回るのに。映画のアクションとか絶対刺激的だろうなぁ、憧れる。  猫がニャーと鳴き、俺に背を向けて歩き出した。そして、塀を伝い十字路を左に曲がっていった。う~んすばらしいバランス感覚だな。 ――――バシャッ  ん? 水に何か落ちたか? ははぁん。あの野良猫め、塀から降りて側溝にでも落ちたか。 ――――バシャッ、ジュッ  ははぁん、野良猫め。急いで道路に上がったな。そりゃいきなり落ちたらビックリもするわな。  ジュッ?  何だその音は。花火の燃えかすをバケツに突っ込んだ音を大きくしたみたいな。火が唐突に消える音のような。    って、待て待て待て待て。あれ? そもそもこの辺に側溝なんてない。増して晴れた日が何日も続いたこの真夏。  水なんて、一滴たりともここにはない。  途端にわき上がる疑問。矛盾。  膨れる好奇心。  さあどうしよう。なんだか気になってしまった。たかだか猫の行動ぐらいで。好奇心が疼いている。  帰り道は右なんだけどな。どうせ今後待ってるのは退屈な日常。それに今日は考えすぎた。考えもなしに行くのも一興。左に曲がるだけで刺激が得られるかもしれないなら。  行かない理由はないな。  俺は足を踏み出した。  この時は夢にも思わなかった。  軽い気持ち。本当に何気ない気持ちでしたこの決断が  俺の人生を大きく変えることになるなんて。
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