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-Capricious sprinkle-
「〝水玉模様の狂想曲〟。悪いわね。これ以上付き合ってられないの。〝こっち〟の人に見られたわけだしね」
………!! 俺のことか……!
あちらがこちらを認識していると知るや否や、俺の中に湧き起こる逃げの感情。そりゃそうだ俺だって普通の高校生だ。逃げるのが当然の反応だ。
呼吸が乱れる。
「ていうか、あなたさっき『道連れだ』とか言わなかった?まあ、あなたが〝アレ〟を狙ってるのは分かるけれど心外なのよね。だってあなたと私じゃ―――」
女が手に水を収束したまま愚痴るように言う。
この時、俺は既に2人に背を向けて走り出していた。先程より、薄暗くなった住宅街を駆け抜ける。それでも女が発した言葉は、はっきりと俺の耳に届いた。
「――――次元が違うのよ」
直後――破裂音。
バケツの水を思いっ切りひっくり返したような水の破裂音。一発、そして二発。音は徐々に数を増していき、やがてその音の間隙を認識できなくなっていく。
同時に聞こえるくぐもった男の声にならない悲鳴。男の悲鳴を掻き消すような無数の水の球の破裂音。大多数が男に命中していることは音から伺えるが、だからといって女の手から無数に放たれる水の弾が全て男に命中するわけではないようで、俺の横を走るより速い速度で通り過ぎていく。ハンドボール大の水の弾が右斜め前方で破裂した。
「………ッあ!」
バランスを崩す。流れ弾が右足に当たった。
それでも俺は止まらない。強引に左足を地面に叩きつけ、踏みとどまり足を前に出し続ける。人外の力に対する恐怖だけが俺を突き動かしている。
元々荒れていた息は更に荒れていく。
どれくらい走ったのだろうか。
気づくと、連続的に聞こえていた破裂音も、くぐもった悲鳴も、いつの間にか聞こえなくなっていた。
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