-入場-

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「はぁ………」  吐かれた吐息は、夏の夜に消えた。  すっかり暗くなってしまい、太陽が完全に仕事を終えた午後8時前。俺はハイツの階段に座り込んでいる。  閑静な住宅街。連立する家々の中、屋根一つ抜き出た建物。4つの住居が組み合わさり、灰色の塗装を施された少し周りから浮いたハイツ。それが今の俺の住居。駅から少し遠いが家賃7万ポッキリの一高校生には贅沢な優良な物件。小さくはあるけど、高校生の一人暮らしなんてこれで十分こと足りる。  家賃は……まあ仕送りで何とかしてもらってる。でも、ぶっちゃけ両親の行方は知らない。たまに電話を掛けても出ない。まあ、なんやかんや生きていることは確かなのでそこまで心配していない。  薄暗がりは完全に夜と化し、月と星が映えるこの世界で、先程の出来事に頭を掻き回された俺は途方に暮れている。  さっきの……なんだったんだろうな……。  今、俺が見ている世界は紛れもなく俺が生きてきた世界だ。  でもさっきの2人が生み出した世界は明らかに常軌を逸している。  あの2人は何者なのか。  あの光景は何だったのか。  俺の知識では到底出るはずのないことが分かってる答えを、座り込んでからずっと探している。  いくら考えようと答えは出ないだろう。そう割り切れれば早いものの、頭に焼き付いたあの光景と、まだ濡れているズボンがそれを許してくれない。むしろ、向こうから俺の頭を駆けるのだ。  ………とりあえず、家に入るか。  釈然としない気持ちを抱えながら俺は家に入った。
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