-入場-

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  (ふぅ……気持ちよかった)  家に入ったらすぐシャワーを浴びた。シャワーとトイレは別。それがこの物件のセールスポイントだった。  空調、冷蔵庫付きのフローリングワンルーム。決して真面目を名乗るつもりのない俺の部屋には勉強机などあるはずもなく、あるのはベッドと、硝子製のテーブルと、ノートパソコンだけ。パソコンの機密フォルダの中身は人には言えません。  髪の毛も乾かさずにベッドへと倒れ込む。なんか今日は走ってばっかだったな……。寝癖は覚悟せにゃなるまいが、遥人が明日は昼から練習って言ってたしもーまんたい。  シャワーが多少落ち着けてくれた頭で、さっきの光景を頭に呼び出す。  あの自然から大きく外れた現象。人外の力。そして、呪文のような、詠唱のような、あの言葉。  それらの事象を繋げる一つの語句。いや……でもそれってなんだかなぁ?  詠唱? かな。聞いた限り英語だったように思うけど……。いよいよこの世界も英語を唱えるだけで超能力者になれる時代が来たんだろうか? 「………フレアランス」  ……何も起きない。当たり前か。そんなファンタジックな時代が来てたまるかってんだ。  さっきから、俺にはある感情が生まれている。恐怖から解放されたから言えるのかもしれないけど……。  とにかく今の生活に不満はない。恋愛はアレだけど、友達にも恵まれてるわけだし。  でもまあ…強いて言うなら……  ――――刺激が欲しいかな。  今の生活を少し一歩引いて見つめて見れば、退屈な授業を受けて、楽しい部活に勤しんで、家に帰る。もうすぐ夏休みとは言え、普段はこれの繰り返し。  人間は飽きる生き物。もちろん俺も例外ではない。故に、この先毎日同じサイクルをこなすだけかと思うと憂鬱に感じることもあるというもので。  だから仮に、もしもあんな力が使えるのなら……  刺激に満ちた毎日が送れるんだろうな―――  そんな〝魔法〟のような力が使えるなら―――な。
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