-入場-

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  「これでウェストファリアに行けるよ。ほら」  リズが壁に手を触れる。すると、壁に触れられると思われたリズの手は何の抵抗もなく壁に吸い込まれた。  うわわ気持ち悪い。リズの手を中心に壁が水面みたいに波打っている。壁が水みたいだ。なんかリズの手首から先が消えてしまったみたいで少し不気味。軽くホラーだ。 「あれ?」  気持ち悪さに抵抗を感じながらも壁に触れてみると、リズのように壁が波打つわけでもなく、そこにあるのはただの壁だった。叩いてもコツコツと音がするだけ。 「ああ、それも説明要るね。大事なことだからよく聞いてね」  壁から手を抜き、俺を見据える。どうやらさっきのシリアスモードに入ったらしい。切り替えの上手いヤツだ。心して聞こう。 「この門を作るのも、魔法の一種なの。だから、体内に魔力のある者しか門は通れないわ。今見たとおりにね。で、そこで大事なのが魔力を宿した者しか通れないってところ。何でか分かる?」  んん? 魔力を宿した者しか通れないのは魔法だから当然……いや、違うな。そんな当然のことをわざわざ聞くはずがない。魔力を宿した者しか……あっ、なるほどな。 「こっちで魔力を使い果たせば帰れなくなるってことか?」  ふふっ、と満足気に笑うリズ。どうやら当たりらしい。  やっぱり鋭い――そう言って続きを話す。 「その通り!魔力を使い果たせばこっちにマナはないから魔力を蓄えることはできないわ。それがこっちで魔法を使わせない抑止力にもなってるんだけど……逆に私達の足枷にもなってるの」  つまり、昨日の赤髪の男の狙う〝アレ〟とはリズの魔力切れだったわけだ。そして、抑止力を無視してまでこっちでドンパチやる輩を捕縛するのがリズの所属する組織ってことか。  ―――となると……いよいよリズがスゴいヤツに思えてきた。自分たちの住む世界に帰れなくなる危険を冒してまで、そんな連中を捕縛する組織に入るなんて生半可な覚悟じゃできやしない。年も俺とそう変わらなそうなのに。少なくとも、今の俺にそんな度胸はないだろうな。
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